愛される昭和カルチャー。ポンポコタヌキの生息地「美冨士」(沼津市)
2025.2.10
グルメ
日本一の富士山を眺めながら、休日を大きく楽しむ!
静岡県東部を中心とした新(深)情報サイト「ふじスマ+(プラス)」のライター、スマコです。
愛情いっぱいのお菓子を目当てに、地域の人のみならず多くの人が足を運ぶ、そんな愛される商品を作り続けるまちのお菓子屋さんをご紹介します。

静岡県内でも生息地が少なくなっている「タヌキケーキ」
経済成長と共に日本人の暮らしが大きく変化した昭和40年代~50年代に、お菓子屋さんの多くで販売されていた「タヌキケーキ」。その愛らしいフォルムと、あどけない表情を見ただけで、自然と笑顔がこぼれてしまいます。初めて見たのに懐かしさを覚えるそれは、昭和のカルチャーと呼べるのではないでしょうか。
昭和から年号が2つ変わった令和の現在、タヌキケーキを製造、販売するお菓子屋さんは少なくなりました。そんな中、販売されているタヌキケーキを”絶滅危惧種”、作り続けるお店を”生息地”と呼ぶ人も。
静岡県内でタヌキケーキを販売するお店は、数えられるほどしかありません。
ふじスマプラスの連携エリア内では、スマコが調べた中ではなんと1軒!
沼津市大岡にお店を構える「美冨士」にお邪魔しました。

菓子作りに携わって、もうすぐ70年の店主 野秋さん
迎えてくれたのは、店主の野秋 保徳(やすのり)さんと、お孫さんの内村 萌永(もえ)さんです。
1942年(昭和17年)生まれの野秋さん、朝5時頃に起きてお菓子作り、自家菜園のお世話など、大変お元気に過ごされています。三島市内の菓子店で15歳から修行を始め、26歳の時に独立。1969年(昭和43年)10月10日に「美冨士」をオープンしました。建て替えのため2018年5月に一旦閉店しましたが、2019年にリニューアルオープンし、この場所で50年以上お店を営んでいます。
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「リニューアルする前は、店舗面積がもっと広くて、和菓子と洋菓子両方のショーケースがありました。当時は100円ケーキも販売していて、長い間、近所の幼稚園や保育園におやつとしてお届けしましたね」(野秋さん)
「近くに学校も多いので、沼津っ子は、美冨士のケーキを食べて大きくなったと言ってもいいかもしれません」と、萌永さんが笑顔で続けます。

美冨士での愛称は「ポンポコタヌキ」
長年愛され続ける「美冨士」のタヌキケーキの秘密に迫ります。
お店によって呼び名は様々ですが、美冨士では「ポンポコタヌキ」の名前でショーケースに並んでいます。
美冨士のポンポコタヌキは豊満ボディ。販売開始から同じ型を使用してスポンジを焼いています。
スポンジ中央にクリームを乗せて冷やしたら、チョコレートをディップ。チョコレートが固まらないうちに、アーモンドの耳を付けて、目から鼻にかけて指でキュッとつまみます。最後に目玉と黒目を絞って完成!冷やして固めるの作業を何度か繰り返すため、ポンポコタヌキの製造は手間がかかります。一度に150個~160個程度製造し、出来上がったら急速冷凍。ポンポコタヌキを目当てに来店する方もいるため、売り切れないように気をつけています。
魚釣りが好きな野秋さん、50年程前に洋菓子職人の釣り友達にレシピを教えてもらったのがはじまり。発売開始当初とサイズやデザインは変わっていませんが、お客さんのニーズに合わせてレシピを変えてきました。
「販売を始めた当初は、ケーキにはバタークリームを使うのが一般的でした。教えてもらったタヌキケーキもバタークリームで作っていました。45年程前でしょうか、生クリームが好まれるようになり、お客さんの好みに合わせて、生クリームへと切り替えました」(野秋さん)

ポンポコタヌキのお腹の中は…
豊満ボディがどうなっているのか、ポンポコタヌキのお腹の中が気になりますよね。
半分にカットすると、スポンジの中にも生クリームが入っています。(上写真)
「たまに自分で食べてみるんです。最後まで飽きずに食べてもらえるようにと考えて、途中からスポンジの中にも生クリームを入れるようにしました。口当たりが良くなるように、少しブランデーを入れたシロップをスポンジに浸しています」(野秋さん)
100円で販売を始めたポンポコタヌキですが、現在は350円(税込)と約50年経ってもお財布にやさしい値段です。物価高騰が続く中ですが、できる限り値上げせずにお菓子を提供したいとお話してくれました。
「お客さんによっては、敢えて冷凍された状態のポンポコタヌキを購入されて、好きなタイミングで召し上がれるようにご自宅の冷凍庫に捕獲しておく方もいらっしゃいます」(萌永さん)
最近では、ポンポコタヌキの他に、萌永さん考案のクマさんなど、動物ケーキが不定期で登場することも。萌永さんのケーキも人気でこの日は売切れた後でした。見かけたらぜひ動物ケーキを捕獲してくださいね!

お菓子にまつわる思い出がいっぱい
和洋菓子を販売する「美冨士」では、リニューアルオープンを機に、製造するお菓子の種類を絞りました。たくさん種類がある中で、ポンポコタヌキが残った理由は”人気商品だから”。
毎月一度、お気に入りの「いも生大福」を70~80個買いに伊東から来てくれるお客さんがいたこと、「懐かしい!まだ売ってるー!」と、年配のお客さんがお孫さん連れで寄ってくれたことなど、野秋さんは長年お店を続けている中でのお客様との思い出を聞かせてくれました。

【季節限定販売】大人気!ファンの多いイチゴ大福
冬から春にかけての季節限定商品「イチゴ大福」も、美冨士の人気商品です。
製造スペースには、イチゴの甘酸っぱい香りが広がっていました。
沼津市からほど近い、伊豆の国市韮山で栽培されているイチゴを使用しています。
店頭に並ぶイチゴ大福の価格の違いは、使用しているイチゴのサイズ。
ずらっと並ぶイチゴ大福を見ていると、ワクワクしてしまいます。
ご近所の方から頼まれたのをきっかけに、約20年前から作り始めたイチゴ大福。
美冨士のイチゴ大福が真っ白でやわらかい秘密は、時間が経ってもお餅が硬くならないように求肥(ぎゅうひ)に、卵白と白あんを入れてクリーム状になるまで練り上げた雪平(せっぺい)で包んでいるから。
ご実家に送られる方、お歳暮に100個以上発送される方など、毎年楽しみにしているファンの多い人気商品です。全国に発送しています。

出会えたらラッキー!ビッグなイチゴ大福
ショーケースの中で、ひと際目を引く存在感を放つ、ビッグなイチゴ大福が!
この日、”特大”、”巨大”、”富士山級”の特別大きなイチゴ大福にお目にかかることができました。
通常サイズ(300円)と富士山級を比べてみると…、野秋さんの手のひらに収まり切らない大きさです!(上写真)取材にお邪魔したのは1月下旬、イチゴの季節のある一定期間しか出会えないというビッグなイチゴ大福。測ったらなんと直径約10cmでした!大きなイチゴ大福2個分ぐらいのボリュームで、食べ応えがありました。中身のこしあんが、イチゴの甘酸っぱさと相まっておいしいこと!雪平もやわらかくて食べやすく、大きくてもペロリでした!話のネタになって会話が弾むこと間違いないので、手土産にもいいですね。
特別大きなイチゴ大福に出会えるかはタイミング次第!
大きなイチゴが入ったら連絡してほしいという常連のお客さんも。

取材こぼれ話▶美冨士の包装紙
お店の看板や包装紙のデザインにまつわるお話を伺うのが大好きなスマコ。
美冨士さんに、こんなに可愛らしいデザインの包装紙がありました。
白地に赤みの強いピンク、水色、グレー3色の大きな花がデザインされています。
以前は、仏事の際にまんじゅうの注文を受けることが多く、明るい色が入っているこの包装紙でいいのかと悩みつつも、創業当初からずっとこちらのデザインを使い続けているといいます。
約60年前にお店を構えた当時、お店から真っ直ぐ先に富士山が見えていたため「美冨士」に。

おじいちゃんのやりたいお菓子を残したい
おじいちゃんの味を継ごうと、萌永さんは2024年の秋から野秋さんの仕事を本格的に手伝い始めました。
「楽しみにしてくれている人がいるので、おじいちゃんのお菓子を残したいと思いました。私が作りたいお菓子を新たに作るのではなく、おじいちゃんのやりたいお菓子を残していきたいです」(萌永さん)
「これから2代目に任せようと思います。世代交代してもお店に来てほしいです」と、萌永さんの気持ちを聞いて、ニコニコととても嬉しそうな野秋さんが印象的でした。
取材中のやりとりからも、仲の良さが伝わってくるお二人。
おじいちゃんからお孫さんへとお菓子作りへの想いと技術が受け継がれ、これからもポンポコタヌキが作り続けられていきます。
スポット情報 – 美冨士
所在地:静岡県沼津市大岡1977-15
TEL:055-921-1750
営業時間:9:00-17:00
定休日:イチゴ大福販売期間は月曜日(目安:11月~4月)
それ以外は月、火曜日(目安:5月~10月)
駐車場:店舗向かい側に2台、店舗裏に1台(美冨士と書いてあるスペースに駐車ください)
ホームページ、SNSアカウントなし
2025年1月に取材しました
※記事内の価格について変動する可能性があります