戸田だからこそできる体験学習。地域全体でサポートするキャリア教育「戸田大志学習」沼津市戸田小中一貫学校
2025.4.7
暮らし
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静岡県東部を中心とした新(深)情報サイト「ふじスマ+(プラス)」のライター、スマコです。
地域と深く関わりながら、自然豊かな沼津市戸田(へだ)で行われているキャリア教育の取組みの数々。子どもの少ない地域にある学校だからこそ、地域が一丸となって子どもたちに様々な経験の場を提供しています。今回は、「沼津市立戸田小中一貫学校」のキャリア教育「戸田大志(たいし)学習」をはじめ、特色ある授業をご紹介します。

戸田の子どもたちが通う「沼津市立戸田小中一貫学校」
小学校と中学校が統合し、2021年4月に開校した「沼津市立戸田小中一貫学校」。※以下、戸田小中一貫学校
「志をもち ふるさとから未来をつくる人」を学校教育目標に、9年間の学校生活を通じて子どもたちの「夢」、「社会性」、「郷土愛」の育成を目指しています。
令和6年度は、1年生から9年生まで58名が在籍。
生徒数に着目すると、まちなかにある学校と比べ、子ども同士の関わりはどうしても少なくなってしまいます。しかし、戸田小中一貫学校では、少人数であることの良さを最大限に生かした学習が行われています。
それは、「総合的な学習の時間」に行われる、体験学習「戸田大志(たいし)学習」。
授業の場は学校ではなく、戸田の地域全体。授業を通して地域の人たちとの交流によって、自分たちが生まれ育った場所の産業や魅力を学びます。
戸田小中一貫学校における生活科と総合的な学習の時間を中心に行うキャリア教育 。『大志を抱いて<夢>』『いざ大海へ<社会性>』『そして母港へ<郷土愛>』を活動の基本理念とし、9年間を通して系統性のある様々な体験学習を実施しています。地域の人たちの協力なしでは成り立ちません。

沼津市立戸田小中一貫学校 梶原利彦校長先生
同校に令和6年度から着任された、梶原利彦校長先生。
授業の様子など、戸田小中一貫学校ホームページ内「学校日記」において、学校生活について積極的に発信されています。
「地域の方たちが、子どもたちのことを”戸田の宝”と呼んでいることに感激しました。地域の大人が手をかけ、愛情を目一杯注いでくれる、子どもを愛する地区へ赴任できたご縁に感謝するとともに、戸田の小中一貫教育にやりがいを感じています」
特色ある戸田大志学習をいくつか校長先生にご紹介いただきました。

”子どもたちのためなら”地元の産業を学ぶことができる魅力ある授業
新年度が始まる4月から1年間、「田植え」、「戸田塩づくり体験」、「林業体験」など、地域との関わりのある活動スケジュールが目白押し。
”子どもたちのためなら”と、地域の方たちも前のめりで協力してくれます。
こうした地元の協力があってこそできる地域プログラムが「戸田大志学習」です。
地元の産業に触れる授業が、年間を通じて数えきれないほど行われています。
小さな漁村として、ずっと地域が支え合ってきた戸田地区。”子どもは戸田の宝”この想いがずっと受け継がれ、自分たちが愛情をたくさん注いでもらったように子どもたちにはできることをしてあげたい。そんな思いのもと、地域全体で子どもたちを育てることが、戸田に住む人たちの当たり前になっています。

沼津市戸田の特産品!タカアシガニの放流
戸田地区では、大正時代初期からトロール漁(底引き網漁)が行われ、地元を支える産業のひとつになっています。
1986年(昭和61年)から、地域資源保護活動として続けられている「タカアシガニ」の放流事業。毎年、トロール漁禁漁期間初めの5月中旬頃に、5、6、7年生が参加しています。
タカアシガニの生態や戸田との歴史について学んだ後、放流する個体に標識となるタグを付けて、船上から戸田沖へ放流します。
タカアシガニは世界最大級のカニ。子どもたちが持つと、その大きさが際立ちますね!
これぞ戸田だからできる体験学習!

40年以上続く、「長野県諏訪郡原村」との交流
沼津市戸田の友好市村である、長野県諏訪郡原村の子どもたちとお互いの地域を訪れるという交流が40年以上続いています。夏には、原村から子どもたちを受け入れ、戸田の海で海水浴など一緒に楽しみます。海のない長野県、タカアシガニの魔除けのお面づくりなど、滞在中には、戸田の文化に触れる体験が盛り沢山です。

冬の交流会 静岡県沼津市戸田×長野県諏訪郡原村
冬には、戸田小中一貫学校の生徒(5、6、7年生)が原村を訪れる「冬の交流会」を開催。スケートやスキー教室など、雪遊びを体験!また、美術館に足を運んだり、レクリエーションを一緒に楽しんだりと、親睦を深めます。戸田、原村、それぞれの地域の特色を体験し合う交流行事が長年続けられています。
7年生は、原村滞在中に「戸田特産物販売会」を開催し、戸田代表として地元をPRするという貴重な体験をします。販売する商品は子どもたちが話し合って決め、販売する商品について調べ、知識を深めてから販売会に臨みます。子どもたちは売り子として、お客様に商品の魅力を伝える声かけを立派にしてくれるのだとか。
こうした他地域との文化交流は、自分たちが生まれ育った戸田の魅力を再発見する機会、そしてコミュニケーション力を身につける機会にもなっています。さらに進級後、これらの経験や知識を活かした、「私たちが戸田のためにできることは何か」という、地域課題解決に向けたより深い地域学習へと発展していきます。

WEB授業で他地域の学校と交流
コロナ禍に学校でのデジタル活用が一気に進み、小学校1年生から生徒1人に1台のパソコンやタブレットを貸し出し、高速ネットワークを整備する文部科学省の「GIGAスクール構想」の取組みが各校で行われています。
※「GIGA」は「Global and Innovation Gateway for All」の略
ICT (Information and Communication Technology|情報通信技術)を活用した教育に力を入れている戸田小中一貫学校。「ロイロノート」を導入し、授業で使用する資料の作成やデザインの作成など、生徒自らチャレンジすることでICTスキルも身につきます。
日々の授業での活用はもちろんのこと、”ふるさと交流”として他地域の学校とオンラインで繋ぐ、WEB交流授業を積極的に行っています。静岡県内でも珍しい取組みで、英語の授業や音楽をツールにした交流も。
この日は、「冬のメロディ交流会」として、7年生が戸田小中一貫校と約20km離れた「沼津市立長井崎中学校」とオンラインで合唱曲を披露し合いました。
WEB交流授業開始当初は緊張した様子だった生徒たちも、交流を重ねるうちに自然と笑顔が見えるようになりました。
「画面越しではあるけれど、以前より仲良くなれたと思います」
「出会いが増えてうれしい」など、生徒たちからの声を聞くことができました。
WEB交流は5、6年生の時から行われています。生徒数の少ない近隣の学校同士で一緒に修学旅行に行く可能性もあるため、他地域との交流には学習以外にも大事な意味があるのです。

へだ未来のふるさとグルメ大使育成授業
最後に、卒業間近の9年生を対象に、年度末に行われる特色ある授業をご紹介します。
2025年3月12日、「網元光徳丸 食事処 かにや」を会場に、沼津法人会戸田支部主催の学習事業「ふるさとグルメ大使育成授業」がありました。この日参加した9年生のうち半数が、高校進学を機に近隣市町に引っ越し、戸田を離れます。
これから出会う人たちに、地元の特産品を自信を持ってオススメしてもらいたいと、タカアシガニやトロボッチの唐揚げなど、御祝い膳が振舞われました。
なんと頼重秀一沼津市長が駆けつけ、「がんばって!」と、エールを届けてくれました。市長登場というサプライズもあり、タカアシガニポーズでの記念撮影では笑顔がこぼれ、大盛り上がりでした!

さすが戸田っ子!
この日、初めてタカアシガニを食べたという生徒ばかりではありませんでした。
タカアシガニを頬張りながら友達同士顔を見合わせて、終始ニコニコ顔の生徒たち。
友達と一緒に地元の味に舌鼓を打ったこの日の記憶は、きっと大人になっても温かい気持ちを引き出してくれる故郷の思い出になるでしょう。

中学校の授業の集大成!地域学習発表会
「へだ未来のふるさとグルメ大使育成授業」後半では、「戸田の今と未来を考える」9年生による発表会と、講師を招いての「重要文化財 松城邸」講話が開催されました。
中学3年生が「戸田地域に関する調べ学習」を2013年(平成25年)から取組み始め、現在まで続けられています。「戸田をもっとよくするための提案」として、9年生が自作したスライド資料をもとに、後輩と地域の方の前でプレゼンテーションを行いました。

後輩と地域の人に向け、地域学習の成果を発表
函南町や三島市など、戸田地区外の職場体験をきっかけに、他地域との違いを見つけることで、地元戸田の魅力を再発見し、地域の課題に改めて向き合いました。
■資源の活用が少ない
■人が少ない
■少子高齢化
■遊び場がない
■交通手段が少ない
地域課題として挙げたこれらに対し、”次世代の担い手として、自分たちが地域に貢献するためには何ができるか”を考え、福祉に着目。「折り紙」や「漢字パズル」など、福祉施設で高齢者の方に喜んでもらえる企画を立てたり、その他に「スマホ教室」を実施したりしました。
「人との関わりの大切さを感じた」
「笑顔で挨拶してくれて嬉しかった。もっと昔の話が聞きたかった」など、自信を持って発表する姿が印象的でした。

SNSを使っていない人にも戸田の魅力を届けたいと作成したポスター
■おもてなしのサービスが自慢の宿泊業
■外国人観光客への対応が充実している
■特産品を活かした飲食店
■自然豊か
地元戸田での職場体を通じて、戸田の良さを再発見したと発表したグループ。
今ある資源をより有効活用することが大切と考え、Instagramでの情報発信にチャレンジしました。
撮影場所の選定の他、いろいろな投稿を参考に撮影したこと、SNSを利用していない方に向けた発信としてポスターを製作したことなど、工夫した点を発表しました。生徒たちの努力が形となったInstagramアカウントをぜひチェックしてくださいね。
「地元の人たちから愛されていると感じますか?」
最後に、9年生みんなに質問しました。
「はい!そう思います!」
笑顔で即答してくれた姿を見て、これまで注がれてきた愛情の深さを感じることができました。
この気持ちは、子どもたちの自己肯定感を高めてくれるはず。また、自分が誰かの役に立っている、必要とされているという自己有用感を高めることにも繋がっているでしょう。この2つは比例するわけではないけれど、自分自身を認めることができるからこそ、他者のことも認められるのではないでしょうか。これから大人になるまでに試練が訪れても、子どもたちは多くの愛情を糧に乗り越えられるだろうと思ったスマコなのでした。子どもたちの未来が明るいものでありますように。
スポット情報 -沼津市立戸田小中一貫学校
所在地:静岡県沼津市戸田883
TEL:0558-94-3028
沼津市立戸田小中一貫学校 ホームページ
Instagram:戸田中報道部 @jhs_heda_report
2025年3月に取材しました