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限りある資源。守りながら未来へ繋ぐ。タカアシガニ放流事業(沼津市戸田)

2025.6.2

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日本一の富士山を眺めながら、休日を大きく楽しむ!
静岡県東部を中心とした新(深)情報サイト「ふじスマ+(プラス)」のライター、スマコです。

日本一深い駿河湾には、様々な深海生物が生息しています。全長3,000m以上のロープの先に袋状の網をつけ、深い海の底を引くように行う底引き網漁(トロール漁)が行われる沼津市戸田(へだ)は、“深海魚の聖地”と呼ばれています。

戸田の特産品を未来へ繋ぐ「タカアシガニ放流」

戸田だからこそ味わえるグルメとして、深海魚料理を目当てに来訪する観光客も少なくありません。資源保護のため、毎年5月中旬から9月中旬頃に深海魚漁の禁漁期間を設けています。

タカアシガニの漁獲量日本一を誇る戸田ですが、近年は温暖化による影響など様々な要因から、漁獲量が減少傾向にあります。地域の特産品を未来へ残すため、長年続けられている保護活動を取材しました。

深海生物に会いに行こう!”深海魚の聖地”だからできる!出会える!戸田深海魚まつり
旬の味に深海魚!訪れると戸田がもっと好きになる!戸田漁業協同組合直売所「へだのすけ市場」


沼津市戸田といえば、トロール漁で獲れるタカアシガニ!

底引き網漁で獲れる深海生物のひとつに、世界最大のカニ「タカアシガニ」があります。
大きいものは、足を広げるとなんと3m以上!

観光資源として漁獲を繰り返していては、いつか枯渇してしまうかもしれない。
地元有志が1986年(昭和61年)にタカアシガニ放流活動を実施。その活動を沼津市商工会が引き継ぎ、タカアシガニ放流が毎年行われています。

今年も実施されると聞き、2025年5月16日に戸田漁港を訪れました。
※観光客、一般の方を対象にした放流体験は、現在実施していません

世界最大のカニで、学名は『マクロケーラ・ケンペル・ディハーン』。17世紀にドイツの博物学者エンゲルベルト・ケンペルが静岡県清水区由比でタカアシガニを見つけ、ヨーロッパに紹介、ドイツの博物館にタカアシガニの標本が展示されています。戸田では大正時代初期からタカアシガニが水揚げされていましたが、肉が水っぽく大味だと人気はありませんでした。調理技術の確立によって1960年(昭和35年)頃から、地元旅館でタカアシガニ料理の提供がはじまり、戸田の名産となりました。

小さな個体や卵を持つメスなど41匹を放流

今年放流されるタカアシガニは、小さな個体や卵を持つメスなど全部で41匹。
これらは地元の飲食店や漁業者などからの寄付であったり、協賛金を使って買い取ったりと、地域の人たちの支援によって活動が継続されています。

2002年(平成14年)から昨年(令和6年)までの23年間で、2,282匹を放流しました。

タカアシガニ放流 開会式

タカアシガニ放流には、以前、ふじスマプラスでご紹介した「戸田小中一貫学校」5、6、7年生の18名が地域学習プログラム「戸田大志(たいし)学習」として参加しました。

開会式では、沼津市商工会の中島寿之さん(丸吉食堂)による講話があり、タカアシガニの生態や戸田との歴史、近年の漁獲量についてなど、活動の目的を参加者同士が改めて確認をしました。

「実証はされてはいませんが、100年くらい生きるのではという説も。成長はゆっくりで、7、8cmのサイズに育つまで5年程度かかり、平均寿命は30年といわれています。移動・定着・広域移動型、3種類のタカアシガニがいて、もしかしたら9月のトロール漁でタグを付けたタカアシガニが捕獲できるかもしれません」(中島さん)

「全国からタカアシガニを食べに観光客が来てくれます。最近取れなくなってきていると聞くので、今回放流したタカアシガニがいっぱい卵を産んで、大きくなってまた戸田に戻ってきてほしいです。放流をきっかけに戸田が盛り上がり、20年後もタカアシガニの放流ができたらいいと思います」

生徒を代表して、6年生の石原花音さんが挨拶をしました。

戸田小中一貫学校における生活科と総合的な学習の時間を中心に行うキャリア教育 。
「総合的な学習の時間」に行われる、体験学習が「戸田大志学習」です。
授業の場は学校ではなく、戸田の地域全体。授業を通して地域の人たちとの交流によって、自分たちが生まれ育った場所の産業や魅力を学びます。

≫戸田小中一貫学校の詳しい取組みはコチラ

まずは放流準備!

放流するすべてのタカアシガニに、個体を識別するタグを取り付けます。
さらに、性別卵の有無重さ甲羅の直径を計測して記録します。

今年は1㎏に満たない個体から5㎏程に育った個体など、大小様々なタカアシガニを放流。
計測を手伝った生徒たちのほとんどが昨年も参加しているため、慣れた手つきで作業していました。
地元のこども園の園児も見学に訪れ、歓声を挙げたり、恐る恐る触ってみたりと、大きなタカアシガニを目の前に興味津々の様子でした。

「地域全体を盛り上げる誇るべき行事だと思います。タカアシガニが地域の宝と知ることができる機会で、この経験は本当にありがたいと思っています。子どもたちは大人になっても思い出すことでしょう」(戸田小中一貫学校 梶原利彦校長先生)

タカアシガニのオスとメスの見分け方

今回、スマコが取材を通じて初めて知ったことのひとつに、タカアシガニの性別の見分け方があります。

ポイントは“お腹”。上写真のタカアシガニのように、卵を抱えるためにお腹が丸く広くなっているのがメス、ゴツゴツして三角形のような形をしているのがオスです。

その他に、一番上のハサミ足の大きさにも違いがあり、オスはメスに比べて大きく成長します。

いよいよ放流!戸田湾沖へ向けて出港

計測完了後、ライフジャケットを着て船に乗り込み、沖に向けて出港です。
豊漁の神様を祀る「諸口神社」へ手を合わせてから沖へ向かう慣習があることを、乗せていただいた船の方に教えていただきました。

水深150m~800mの深海に生息し、特に水深200m~300mに多く生息するタカアシガニ。例年、150m~200m前後の海域に放流しています。

大きくなって戸田に帰ってきてね!

沖合約1.2km(水深150m)に移動し、まず海へ塩とお酒を撒いてお清めをします。
そして、エサを撒いた後、いよいよ放流開始です。
生徒たちが1匹ずつ大事に抱え、船上からゆっくり手を離し、タカアシガニを放流します。

「大きく育ってね!バイバイ!」
声をかけながら、ゆっくりと静かに海中に潜っていく姿を見守りました。

資源は有限。守りながら未来へと繋ぎます

「卵を産んで、戸田へ戻ってきてほしいです」
この言葉から、地元戸田にとってタカアシガニが特別なものなのだと、子どもたちが理解しているのがわかります。

記録が残っている期間においては再捕率が約2%で、ここ5年間では放流したタカアシガニが戸田に戻ってきていないといいます。これまで御前崎や磐田など遠州灘、さらには三重県など県外でも戸田沖で放流したタカアシガニが再捕されており、活動がタカアシガニの生態解明の一助となっています。

「資源には限りがあります。子どもたちが大きくなってからもずっと地域産業としてたくさん漁獲できるよう、放流活動を続けていきたい」強い信念を持った、戸田の大人たちの姿がありました。

主催団体情報 – 沼津市商工会 戸田支所


所在地:静岡県沼津市戸田1028-5
TEL:0558-94-2224
FAX:0558-94-4029

≫静岡県沼津市商工会 ホームページ

2025年5月に取材しました

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