星空を楽しむ入口「月夜のうさぎ天文台」(沼津市)天文台修繕プロジェクトが始動。
2025.6.17
暮らし
日本一の富士山を眺めながら、休日を大きく楽しむ!
静岡県東部を中心とした新(深)情報サイト「ふじスマ+(プラス)」のライター、スマコです。
観光情報サイトであるものの、連携エリア内のがんばるヒトや会社を応援するのが、私たち「ふじスマプラス」。地域の人たちにとってのサードプレイスが、活動の継続に向け、あるプロジェクトに挑戦中!

星空を楽しむ入口「月夜のうさぎ天文台」
沼津のまちなかに、誰でも気軽に天体観測が楽しめるスポットがあるのをご存知ですか。
“星空が大好き!大きくなったら宇宙飛行士になりたい”
“忙しくて最近は見ていないけれど、若い時はよく天体観測をしたなぁ”
”特に知識はないけれど、まちなかでどんな星空が見られるのか気になる!”
星空や天文知識がなくてもOK!
”星空が見たい”その気持ちだけあればどなたでも。
星空を楽しむ入口となる場所が「月夜のうさぎ天文台」です。

世界初酒屋付き天文台
じつは、「月夜のうさぎ天文台」は、酒販店「酒の矢田」屋上にあります。
天文台なのに酒販店?一体どういうことなのか、なかなか想像がつかないのでは。
なんとも興味深い、世界初酒屋付き天文台をご紹介します。

2016年に開台した私設天文台
近くの国道沿いには多くの店があり、夜も照明が煌々としているまちなかで、星空を楽しむ機会を創出している私設天文台が「月夜のうさぎ天文台」です。
果たして明るいまちなかで星空が見えるのか。
天文学の知識をもつ人と望遠鏡があれば、郊外へ出向かずとも月や惑星、肉眼で季節の星座を身近に楽しんでもらうことができます。
「月夜のうさぎ天文台」では、子どもも大人も誰もが気軽に参加できる観望会を開催。
観望会は、住宅街にあり、アクセスの良いまちなかだからこそできる夜間交流の場になっています。
直径2m、高さ3mのドーム(協栄産業製GFRP2.0)には、口径21cmの反射式望遠鏡(タカハシ製μ210)が設置されています。その他に、駆動架台赤道儀(EM-200)や双眼鏡を使って多くの人に星空の魅力を届けることに力を注いでいます。

月夜のうさぎ天文台 台長 矢田匠さん
小学校時代の恩師との出会いをきっかけに、星が大好きになった矢田匠さん。
北海道出身の恩師が見上げた北海道の星空を自身も見てみたいと、北海道の大学へ進みます。卒業後、道内の高校に就職。高校では、簿記を教える傍ら、天文同好会を設立し、生徒とともに星を見上げる楽しさを分かち合いました。そして、家業を継ぐために、地元沼津に帰郷します。元高校教諭の酒屋さんが、私設天文台「月夜のうさぎ天文台」を開設しました。
”夜空に興味を持つ人たちに、星を見せてあげたい”という想いがあって、「常設の天文台」を持つことが私の夢だったんです。開設当初から、オープンな天文台にしたいと思っていました。
最初は、ワインと観望のような大人向けの企画を立てていたんだけど、会を重ねていくなかで違和感があって、お酒と切り離して純粋にお月見会をしようと、今の観望会のスタイルに変えていきました。
天文と望遠鏡の知識がなくても、星を見たいという方には、楽しんでいただけるようにサポートします。
一緒に星空を見て、その時の気持ちを伝えてほしいです。望遠鏡を覗いて絶叫したり、黙ってしまったりと、反応は人それぞれ。同じ時間を共有できたらうれしいです。

星空を通じ、学びつながる ”まちの天文台”
”夏休みの宿題を請け負おう” 観望会のスタイルを見直した当初は、それぐらいの気持ちだったといいます。「十五夜イベント」や「月イチ観望会」を開催するなか、キッズタイムと昔キッズタイム(大人)と開始時間を分けるなど、観望会に参加する人たちの年齢に応じた配慮を払うことで、参加しやすくなったと保護者からの声が聞かれるようになりました。
矢田さんのサポートのなか、スマホでも美しい月や惑星の写真を撮ることができるので、展望会をきっかけに星空にハマってしまう人も。
2023年、2024年の「十五夜イベント」には100人以上が訪れ、「月イチ展望会」にも毎回30人ほどが参加しています。(2024年は毎月展望会を実施していましたが、春以降は休止中)
まちの天文台は、星空を通じ、キッズと昔キッズ(大人)が集う、心地よい居場所になりました。

まさかこんな展開になるとは思ってもみなかったなぁ(矢田さん)
矢田さんには、天文台を通じて知り合った3人の小学生の弟子がいます。
最初はお客さんとして観望会に参加していましたが、星空の美しさや星空の撮影の楽しさを知り、星空の魅力を伝える側になりました。
「最初は、身体が小さくて締めたいネジに手が届かなくて。大人が補助しながら2人がかりで望遠鏡を操作していたんだよね。熱意をもって楽しく伝えていると、楽しいは伝染するんだよね。自然と彼らも感じているでしょう」(矢田さん)
今年1、2月に行われた観望会では、お客さんのリクエストに応え、望遠鏡に列ができるほどだったといいます。急なリクエストにも対応できる技術を身につけ、弟子たちはたくましく成長し、最近では師匠の出番が少なくなっているのだとか。
幼稚園の時から観望会に通うTくんが一番弟子、弟子2号のMくん、弟子3号のMさんの3人は、年齢も通っている学校も違います。共通点は、星空が大好きで師匠を尊敬していること。
■はじめて天文台を訪れたきっかけは?
――小学校3年生の時、お店の前に望遠鏡が置いてあるのをたまたま通った時にみつけました。保育園の頃からずっと星が好きで、本を読んだり、プラネタリウムに行ったりしていたので、「望遠鏡があるね。今度行ってみようか」と、お父さんと話をしました。改めてお店に行った時に、屋上に天文台があることを知ってわくわくして。ずっと通って弟子に認定されました。
■お客さんと関わって、楽しいと思う時はどんな時ですか?
――大人の人の対応、操作は弟子になって最初の頃は緊張したけど、慣れてくると意外と大丈夫。楽しいとも思えるようになりました。普段は子どもと子どもで話しているけど、大人と子どもで話しているから、年上の人とコミュニケーションがとれていいなと思います。楽しいと思うのと会話の能力も上がるから一石二鳥だぜって思います。
■展望台(観望会)でこれからがんばりたいことはありますか?
――天体ドームに設置された大きい望遠鏡の操作で、できることが少ないので(もっとできるように)がんばりたいです。学校でも研究を発表することがあるので、天文台のことをもっと発信出できたら。4年生の時に、仕事体験を酒屋さんでしてもらいました。今度は天文台のことを中心にみんなに発信したり、天文台はfacebookをやっているからそれを知ってもらえるようにがんばりたいです。友達のお父さん・お母さん、またその知り合いとか、もっと多くの人に知ってほしいです。天文台をみんなに知ってもらえるのはうれしいです。

ししょーと弟子、互いに信頼し高め合える関係
望遠鏡の操作から撮影、お客さんへの対応など、3人の弟子が観望会を支えます。
ある観望会の際に矢田さんが準備した、弟子への伝達メモを見せていただきました。
3人それぞれに役割があり、担当する場所が異なります。単独オペレーションのような状況のうえ、矢田さんからのメモは至ってシンプルなことに驚きです。飲み込みが早く、成長意欲の高い3人には、このメモで充分なのだとか。
そんな真っ直ぐで頼もしい弟子たちの成長を見守るうちに、矢田さんの気持ちにも変化が生じたといいます。
矢田さんと3人の弟子たちは、一緒に夜空の楽しさを伝えるもはやチームメイト。
この子たちなら大丈夫!もっともっと成長できる!互いに信頼し合う関係が築かれているのです。
今、自身が星空と出会うきっかけをくれた恩師、石谷先生と過ごした日々をトレースしているのだと矢田さんはいいます。
「教員は、(自身が)わかっている世界観をわかっていない人に伝えるメッセンジャーと、かつて石谷先生がくれた言葉が強く印象に残っています。私が弟子たちに伝えることは、本当に基礎的なことなんです。注意事項や扱うヒントなど、教える側がしっかりポイントを教えることができれば、年齢関係なくできるんですよね。来場者への対応のなかでイレギュラーなことが起こります。その場で決断して、判断してと繰り返していくことで、対応する力が養われるし、経験から得られるものがあります。経験値が上がっていくと揺るぎないものが見えてきて、次のステップに進みたいと思う時が来るでしょう。今の経験が弟子たちの強さになって、星のことじゃなくても好きなもの、やりたいこと見つかった時に、ガンガン進める気がします」

開台から約10年。天文台の床の老朽化が深刻に
利用者に子どもが多い「月夜のうさぎ天文台」。開台から10年近く経った2024年秋、天文台の床にキノコが生えているのをみつけます。そのことをきっかけに調査をしたところ、床の腐食が深刻な状態になっていることが判明しました。
来訪者を安全に迎えられるか懸念があるため、これまで続けてきた「月イチ観望会」を春から休止しています。

天文台修繕プロジェクトが始動!クラウドファンディングに挑戦中
”訪れた人に安心して利用してもらいたい”
”これからも地域の人たちの居場所でありたい”
星空にふれる機会の創出、地域や校区・世代を超えた交流の場を、これからも子どもたちに提供し続けられるように、天文台修繕プロジェクトとして2025年6月1日からクラウドファンディングに挑戦しています。
- 望遠鏡とドーム(球体部と観測室部)を一度取り外し
- 基礎鉄骨部分の防腐処理を施す
- 新たに耐久性のあるデッキ材を敷設
- 再び望遠鏡とドームを設置し、観望会が行える状態に戻す
多くの応援の手が差し伸べられ、床の修繕費用の目標額を達成しました。これから先を見据え、天文台に上がる階段のサビ止め処置、再塗装を目指し、現在、ネクストゴールまであと一歩というところです。
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2025年6月8日(日)夜、弟子1号Tくん、弟子3号Mさんを中心とした、「天文台修繕プロジェクト応援灯火観望会」が天文台で行われました。
しかし、この日はあいにくのお天気。観望会をすることはできませんでしたが、天文台の応援サポーターである利用者の8人と矢田さんと、天文台のこれからについてじっくり話し合いました。
天文台のSNSの発信や運用について、床の修理後に天文台をどうしていくかなど、大人も子どもも意見や自分の気持ちを伝え合いました。スマコも参加させていただきましたが、この日集まった皆さんの言葉から、全員が自分ごととして天文台のことを考えていることが伝わりました。
■はじめて天文台を訪れたのは?弟子に認定されたのはいつですか?
――(幼稚園)年中の時です。弟子になったのは小学校1年生の時です。
■天文台に来たお客さんの対応や望遠鏡の操作はいつからやっていますか?
――小学校2年生頃からです。初めて自分で操作した時は、どうやるんだろうと思ったけれど、今は得意になりました。天文台に来てくれる大人の人たちと喋ることも、やり続けてきたら慣れてきて今は緊張しません。ピントを合わせるのが難しいので、もっと上手になりたいです。
■天文台の魅力は?
――スマホでも写真がきれいに撮れるところです。土星の輪っかを観るのが好きです。
■クラウドファンディングに挑戦中だけど、プロジェクトを応援してくれる灯守(あかりもり)の人たちにメッセージをお願いします。
――安全に星とか月を観られるように応援してください。
クラウドファンディング≫ 天文台の灯守(あかりもり)になってください!
★灯守(あかりもり)とは…天文台で星空を見上げる人々を温かく見守り、天文台を未来へとつなぐため支えてくれる人たちのこと。

がんばりを認めてくれる場所。自信をつけ、その先へ!
「観望会に参加してくれたHくん(当時小学1年生)が、翌月の観望会の時に金星の形の変化に気づいてスケッチしてくれたんです。こういう気づきが観望会を続けていてうれしい瞬間です。その時にたくさんHくんを褒めたんですが、”よかったな!あんまり褒められることないもんな”って、Hくんのお父さんが言ったんですよね。保護者、天文台を訪れた大人に、自分の子どもとか関係なくたくさん褒めてもらって、がんばりを認めてくれる場所にしたいと思っています。そうして愛情を受け止めていくうちに、きっと自信をつけてくれるはず」
学校ではないけれど、ここでしかできない経験があり、学びの場所になっています。
星空を楽しむ入口である「月夜のうさぎ天文台」での経験が、子どもたちを大きく成長させてくれます。子どもだけでなく、誰でも受け入れてくれるその温かさに大人もほっと安心感を覚えるでしょう。
「弟子たちも大きくなるにつれて環境が変わっていくので、忙しくなって天文台に頻繁に来られなくなったとしてもOB、OGとして関わってくれたら。これからも新たな弟子との出会いを繰り返していきたいです。弟子たちには、星に限らずどんな分野であっても、次の人たちに自分の技術や経験を伝えていってほしいと思います」
クラウドファンディングの状況や、弟子たちのがんばる姿をSNSで発信しています。
ぜひ最新情報もチェックしてくださいね。
わたしたち「ふじスマプラス」は、「月夜のうさぎ天文台」の活動に、これからもエールを送り続けたいと思います。
スポット情報 – 月夜のうさぎ天文台
所在地:静岡県沼津市岡宮375-14(酒の矢田屋上)
連絡先:moonrabbitobservatory@yahoo.co.jp
OPEN:イベントなど、SNSでお知らせ
Instagram:@moonrabbitobservatory
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X:@moonrabbitobser
YouTube:月夜のうさぎ天文台
2025年6月に取材しました