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魚のかわいらしさ、漁業について知ってほしい。漁師だからこその視点をデザインに落とし込む新星アーティスト大沼瑞保さん(沼津市)

2025.7.25

アート&カルチャー

日本一の富士山を眺めながら、休日を大きく楽しむ!
静岡県東部を中心とした新(深)情報サイト「ふじスマ+(プラス)」のライター、スマコです。

ふじスマプラス連携エリア内で活躍するアーティストにスポットを当てる応援企画。
今回は、海の生き物をテーマにイラスト、デザイン、グッズ製作など、多岐にわたって活動する大沼瑞保さんをご紹介します。

漁師とアーティスト。好きから広がる

海が庭と呼べるほど海が身近な場所で、マアジ・マダイの養殖など、漁業を営む家に生まれました。現在、生まれ育った海辺のまち沼津市内浦をフィールドに、漁師、アーティスト活動にと忙しい日々を送っています。

小さな頃から海の生き物がそばにいた

生まれ育った沼津市内浦エリアは、昔から漁業が盛んな場所。
おじいさん、お父さんが海で獲ってきた魚を観察するのが好きだった瑞保さん。東京海洋大学へ進学します。
当初は、漁師になるという気持ちはなく、魚類学者のさかなクンに憧れ、魚の研究がしたかったのだといいます。

在学中に、国内各地の多様な漁を体験するうちに、魚の行動に合わせた漁の方法に興味を持つようになりました。この経験から、大学院を卒業後、漁師として本格的に家業を手伝うように。

【海の仕事】
■マアジ・マダイの養殖(通年)
■アオリイカ漁(4月中旬~8月)
■イワシのまき網(春と秋)


そんな中、新型コロナの流行で、大きな転機が訪れます。
もともと絵を描くことが好きだった瑞保さん、家で過ごす時間が増えたことをきっかけに、iPadを購入。デジタルアートの手軽さと楽しさにハマり、海の生き物を描くようなりました。

『自分が欲しい魚のグッズを自分でつくろう』そんな思いが芽生えます。
少しずつ魚グッズをつくるなか、2023年3月に開催された「海からの贈りもの展」で初めての対面販売に挑戦。そこで出会った作家、お客さんとのやりとりがさらなる刺激を与え、約1年間、デザインの学校へ通いました。

現在は、家業が忙しい時に手伝いをしつつ、ヨットハウスの事務、アーティスト活動と幅広く活動しています。

瑞保さんの魚グッズの取扱い店

それでは、瑞保さんの作品はどちらで購入できるのでしょうか。

■沼津内浦漁協直営いけすや(沼津市内浦小海)
■大瀬崎ダイビングショップ「COCOMO OSEZAKI」(沼津市西浦大瀬崎)
■SAKANA BOOKS(東京都新宿区)
■アクアマリンふくしま アクアマリンショップ「JOHMONじょうもん」(福島県いわき市)

※2025年7月現在

同じ内浦エリアにあります、「沼津内浦漁協直営いけすや」にお邪魔しました。

沼津内浦漁協といえば!”いけすやの活あじ”

沼津市内浦は、日本一の生産出荷量を誇る養殖マアジ「活(かつ)あじ」の産地。
「いけすや」目の前の生け簀から、生きたまま出荷した活魚(マアジ)なので、「いけすやの活あじ」と呼んでいます。

養殖地として恵まれた自然環境、そして安心安全を消費者に届けるため長年に渡り培った養殖技術の高さが産地としてブランド化しています。

「いけすや」のお土産売場の一角に、瑞保さんのお魚グッズコーナーが常設。
「活あじ」をデザインしたバッグやTシャツなど、幅広く展開しています。

デザイン学校の課題でつくったものがベースになっている「活あじ」のデザイン。実際に商品となって、観光客が多く訪れる「いけすや」の店頭に並んでいるのを見ると感慨深いのだとか。

アジのヒレのところにある黒い点を表現したのがポイント。
かわいらしさと生体の特徴をしっかりと掴み、海の生き物のかわいらしさを表現するのが彼女の作品の魅力です。

現場を知る漁師だからこそ生まれるデザイン

「いけすや」の人気メニュー、「活あじ丼」、「活あじふらい」のグッズも。
キーホルダーの台紙もすべて瑞保さんが手掛けています。
食べ物を描くのも楽しいと気づくきっかけになった作品です。

その他に、内浦の海に生息する海の生き物をモチーフにした、缶バッジやステッカーなどが並びます。カラフルでかわいらしく、種類が豊富なので思わず集めたくなるグッズの数々。

「おちょぼ口など、種によって色も形も個性があって、その豊さにおもしろさを感じます。そして、自分の目で実際に見た海の生き物の方が、出会った時の感動やかわいさを絵で表現しやすいですね。魚の形のおもしろさやかわいらしさが、描く原動力になっています。色や特徴をリアルに描きすぎないよう、シンプルに表現してみるなど加減をすることで、かわいらしさを出します。その塩梅も大切で、あくまでも自分の持っているイメージを崩さない程度です」


リピーターが多い瑞保さんの魚グッズ、今年、「いけすや」とのコラボ商品が新たに誕生しました。

「いけすや」土屋店長のイチオシ!いけすや10周年記念手拭い

2025年5月で開業10周年を迎えた「沼津内浦漁協直営いけすや」。
「記念品の手拭いをつくってほしい」と、いけすや店長の土屋真美さんから依頼を受けました。

『漁師の自分だからこそできるものをつくりたい』

生け簀のちびっこアジが成長して、いけすやの活あじ丼になるまでをデザインした、
ROAD TO KATSUAJIDON」を製作しました。

「手拭いをデザインしてほしいと、私から瑞保さんにお願いしました。出来上がった手拭いは、他の方ではこのデザインは思いつかないだろうという素晴らしいものをつくってくれました。真上から見た生け簀をモチーフにするなど、養殖の現場を知っている彼女だからこそのデザインです。いけすやのロゴマークも、じつは生け簀がモチーフなんです。いけすやのイメージカラーで仕上げてもらい、みなさんからとても好評です」(土屋さん)

マアジの養殖を手伝う瑞保さんならではの視点

土屋さんからの烈々なリクエストだった手拭い製作でしたが、瑞保さん自身も挑戦してみたかったグッズのひとつでした。

「お話をいただいた際には、漠然としていて悩みました。でも、マアジの養殖経験があるからこそつくれるものにしたいと、養殖・出荷の生産から辿る、いけすやの活あじ丼までの道のりをデザインしました。じつは、出荷の作業をしているモデルはお父さんなんです。そして、出荷の時にアジを狙う、鵜(ウ)とアオサギも描きました。アジを狙って船上に来たり、生け簀に入ってきたりと、なかなか大胆な手口です」(瑞保さん)

ちなみに、瑞保さんのお父さんが養殖したマアジも、「いけすや」で味わうことができます。
「ROAD TO KATSUAJIDON」の道のりを頭に浮かべつつ、身の締まったぷりぷりの活あじを召し上がってみてくださいね。

2025年 大きな壁画に挑戦

今年、手拭い製作に続き、新しいチャレンジを成し遂げた瑞保さん。
2025年春に、「内浦造船所(沼津市内浦重須)」の奥さんから打診があり、建設中の作業場に大きな壁画を描きました。瑞保さんのお父さん、健一さんの船をつくってもらった造船所です。

デザインはおまかせということで、賑やかで楽しそうな雰囲気に仕上げたいと、まずは下絵を作成。
近隣で見られる、身近な海の生き物をモチーフにしました。
なんとその大きさは、縦5m、横8mの大作!

①下絵を考える(5月上旬)
②ペンキの色を決める
③1mずつ測り、グリッド線を引き、壁画の下絵を描く(5/26)
④ペンキを塗る

⑤メッセージ、名前、日付を入れて完成(6/30)

大きくバランス良く描くことについてはスムーズに進めることができましたが、色決め、壁の凹凸部分への色塗り、そしてペンキの重ね塗りに苦労しました。

色の組み合わせやセレクト次第で、壁画の雰囲気がガラリと変わります。
そして、色見本と実際に届いたペンキの色のイメージが違うなど、悩みながら作業を進めたといいます。安全ベルトを装着し、壁画を俯瞰して見るために何度も足場を昇降往復しながら仕上げました。

内浦重須にキュートなフォトスポットが誕生

カラフルで大きな壁画は、「内浦造船所」の対岸や海上からも目を引きます。
描き進めるうちに、タコと一緒に記念撮影ができるフォトスポットのイメージが湧いてきたといいます。

「タコやヒラメがかわいく描けました。内浦造船所のみなさんをはじめ、見に来てくれた地元の人やヨットのお客さんに褒めてもらいました。海から見えると元気が出るよと、言ってもらえてうれしいです」

壁画は敷地内にありますが、ぜひ見に来てくださいと「内浦造船所」さんからご承諾いただきました。
撮影や見学を希望される方は、スタッフの方にひと声かけて了承を得てください。



THERE ARE ♥×4 IN THIS MURAL.
MAY YOU FIND HAPPINESS

この壁画には♥が4つあります。幸せが訪れますように!
瑞保さんからの幸せのお裾分け。フォトスポットとして撮影を楽しみながら、♥を探してみてくださいね。

世の中の魚グッズを増やしたい!

普段、iPadを使ったデジタルの手法で作品づくりをしていますが、今回の壁画制作をきっかけに、アナログのおもしろさを知ったといいます。

「今後、アナログの手法でも絵を描いてみたいと思っています。絵の具にチャレンジすること、そして、まだ悩み中ですが、イラストをちりばめた作品集のようなZINEをつくりたいです。一番に、犬グッズ、猫グッズの数を超える、魚グッズを世の中に増やしたい!という気持ちがあって。自分のグッズを通じて、魚のかわいさや漁業を知ってもらえたら。できるだけイベントにも出店していきたいと思っているので、イベントの時に魚の話を一緒にしましょう!」

数年前は、ノーマル漁師だった瑞保さん。(瑞保さん曰はく、漁師の仕事1本だったという意味)
イベント出店で出会った作家さんたちとの出会いが、彼女に新しい世界を見せてくれました。
これからチャレンジしたいアナログの手法のこと、グッズ製作のこと、相談に乗ってくれるアーティストの存在が創作活動を後押ししてくれているとのこと。

”自分の中のコレ!を見つけたい”

自分らしさを表現できる作風を確立しているアーティストが周りに多く、瑞保さん自身の代表作となる作風を見つけるのが今の目標。そのためにも、興味を持ったことに、積極的にチャレンジしていきたいと力強く話してくれました。



アーティスト情報 – 漁師兼アーティスト 大沼瑞保さん


オンラインストア:FISH JAR
漁師みずほInstagram:@numam.a
アーティスト活動Instagram:@mizuho.osakana

※2025年7月に取材しました

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