伊豆の海を支える老舗「塚田商店」──漁師の知恵から生まれた漁網タオル「糸結浴布」(沼津市)
2025.11.4
暮らし
日本一の富士山を眺めながら、休日を大きく楽しむ!
静岡県東部を中心とした新(深)情報サイト「ふじスマ+(プラス)」のライター、スマコです。
漁業が盛んな静岡県沼津市内浦地区。
青い海と山々に囲まれたこの町に、ひっそりと佇む一軒の店があります。
潮の香りが感じられる海のすぐそばで、親子三代で紡がれる物語をご紹介します。

伊豆の漁業を支える縁の下の力持ち「塚田商店」
1955年(昭和30年)創業、伊豆の漁業を支え続けてきた漁網専門店「塚田商店」。
創業から70年、時代の流れとともに漁業の現場も大きく変化しています。漁業資材を扱うだけでなく、漁師の知恵を生かした新しい商品「糸結浴布(漁網タオル)」を開発、新たな事業展開に挑み10年を迎えようとしています。

海とともにある町
港町の風景に自然に溶け込み、漁師たちの毎日の仕事を静かに支えている「塚田商店」は、漁網・漁具・船具といった漁業資材の卸売・販売を専門に行い、地元漁師をはじめ養殖業者や水族館まで幅広く取引しています。静岡県東部を中心に、伊豆半島の港町を網羅するそのネットワークは、70年を超える歴史の賜物です。
店舗周辺には、内浦の名物である「活あじ」が味わえる「内浦漁協直営いけすや」や、「あわしまマリンパーク」、そして長い歴史を誇る水族館「伊豆・三津シーパラダイス」があります。
海と人が寄り添う場所にあり、「塚田商店」もその一部として息づいています。
観光地として訪れる人にとっては“海を楽しむ場所”。
そして、漁業者にとっては“海とともに働くための拠点”。
そのどちらの視点から見ても、「塚田商店」は沼津の海の魅力を支える存在です。

受け継ぐ誇り、挑戦する心──塚田商店代表 イシカワ サワコさん
代替わりして12年。現在の代表である、イシカワサワコさんは三代目。
創業者である祖父は、長野県鬼無里(きなさ)村出身で、林業と麻の生産が盛んな地域に生まれました。
どうして縁もゆかりもない場所で、漁業資材販売を始めたのでしょうか。
丁稚奉公先が麻を取り扱う店で、麻の価格を決める場所が静岡県沼津市にあったことをきっかけに、この地へ渡ったといいます。
独立後、麻や綿のロープを中心とした資材販売を沼津港でスタート。
「お客様の“これが欲しい”に応えていくうちに、いつの間にか漁業資材専門店になっていたのだと思います」と三代目は話します。
時代が変わっても、“人の声に応える”というDNAは変わらない。
創業から70年を経た今も、その姿勢は受け継がれています。

塚田商店の店内──誠実な仕事が積み重なる場所
沼津港で創業、お客様の多かった沼津市内浦小海に支店を出して約30年。
棚にはロープ、網、ブイ、カゴ……。
所狭しと並ぶ資材は、すべて海の仕事に必要な道具たち。
一見すると無骨な光景ですが、ひとつひとつに「使う人」の顔が浮かびます。
サワコさんが事業を受け継いだ時には、沼津市内に同業の漁網を扱う資材店が2社ありましたが、今では「塚田商店」だけ。地域の漁業者が減るなかで、漁網屋の存在も貴重になっています。
「やめるにやめられない」と三代目は笑うが、その言葉の裏には強い責任感があります。
サワコさんが小さい頃からお世話になっているという製網メーカー(当時の専務)からも「やめるなよ」と励まされるほど、地域の信頼は厚く、なくてはならない存在です。

海のすべてを支える──多彩な商品ラインナップ
- 定置網・刺し網・投げ網など、漁法や魚種に合わせた漁網各種
- 網の修繕・補修用品
- 船のメンテナンス資材
- ロープ、ブイ、浮き、錨、釣り具、カゴなどの漁具類
- 係留資材、安全装備、ロープワーク用品
取り扱う品が幅広いだけに、取引先は漁業者だけでなく、水族館や養殖業者、県外の顧客も。
お客様の「こんなものが欲しい」に即応し、メーカーに直接問い合わせ、探して届けるという地域の漁業を支える受け皿になっています。この“対応力”こそが「塚田商店」の誇りです。
「お客様が求めるものを見つけることができて、喜ぶ顔が見られた時ですね。あとは、これまでにはなかったお手伝いができる、そんなお客様との新しい出会いに恵まれた時。大手の資材メーカーもありますが、密にコミュニケーションがとれること、気軽に相談できる関係づくりを大切にしています」

水族館にも息づく技術──地域とともに歩む
地元の水族館に、二代目である父親が手掛けた仕事が今も残っているとのこと。
展示水槽の裏方、見えない場所で支える漁具やロープ。
三代目はその姿を見るたびに、父の存在を感じるといいます。
「伊豆・三津シーパラダイスさんには父を知る飼育員さんもまだ勤めていらっしゃいますし、体の大きなシャチがぶつかっても傷つかないようにと、特別注文で製作したクッションの良い繊維で作った仕切り網は現在も使用されています。あとは、イルカのジャンプでタッチするボールも塚田商店で納品したものです。父が亡くなったあとも、水族館に行くと父の手掛けた仕事を見ることができて嬉しいです。じつは今、父が亡くなった時と同じ年齢なんです。そんな歳にこうして取材を受け、改めて振り返ることができ、“やってくれてありがとう”と伝えられているような気がします」
沼津の自然の豊かさ、伊豆の海のポテンシャルを感じながら、三代目は今日も海と向き合います。

漁師の知恵から生まれた「糸結浴布」──漁網タオル誕生
塚田商店の目の前に広がるのは、網の点検や補修など、漁師が網のメンテナンスを行う内浦らしい光景。サイコラックという網針(かつては竹製)を使って網を修繕したり、船のペンキを塗り直したり、日々のメンテナンスはできる限り自分たちで行います。
2016年、三代目が携わった西伊豆町の「ふるさと納税返礼品」開発。
“地元漁師が使い込んだ漁網をヘチマ替わりに使い、身体を洗っていた”という話がヒントとなり、漁網タオル「糸結浴布(いとゆいよくふ)」が誕生しました。
当時の西伊豆町長に、「丈夫でダメにならないのが欠点だな」と言われたことから、逆転の発想でキャッチコピーは「ダメにならないのが欠点です」。このひと言に、“ものづくりの誠実さ”が込められています。
- 泡立ちが良く角質スッキリ
- 程よい刺激でマッサージ効果
- 丈夫で長持ち、清潔に使える

伊豆の海の知恵と手仕事が詰まった、こだわりのものづくり
ひとつひとつ手切りで裁断。
素材はナイロン100%。水切れがよく、清潔に使い続けることができます。
- 刺激が強すぎない肌当たり
- 約1cmの目合(めあい)と結び目のマッサージ効果
- 背中も洗いやすいサイズ(横35目×長さ90cm)
- 国内生産・高品質仕上げ
染色は“漁網らしい”赤褐色の「カッチ色」。(カッチは、漁網を染めるのに用いたマングローブから抽出した植物性染料。魚に気づかれにくい色なのだとか)
浴用タオルから、最後は浴室の床磨き掃除まで使い切ることができます。
海の道具が、暮らしの道具へ――これぞ塚田商店流の再発明。

「井草呉服店」で聞いた、お客様の声
現在、「糸結浴布」の取扱店は、沼津市内に3軒。※2025年11月時点
■塚田商店(沼津市内浦小海)
■井草呉服店(沼津市大手町)
■ポートカフェ(沼津市千本港町)
着物を扱う老舗「井草呉服店」が、なぜ漁網タオルを?
新仲見世商店街に店を構える「井草呉服店」店主の井草雅彦さんにお話を伺いました。
「取扱いを始めたのは約2年前、沼津を舞台にしたアニメのまちあるき企画に参加した際、”沼津の商品はありますか?”と、来店したアニメファンの方に言われたことがきっかけです。 着物にまつわる商品で沼津のものってなかなかないんです。もともとサワコさんとは知り合いだったので、販売させてもらえないか相談しました。リピートして購入してくれたり、使ってみてよかったから友達にプレゼントしたいと買ってくれたりと好評を得ています。パッケージに、沼津市(内浦エリア)の地図がデザインされているところがポイント高いんです。”アニメの舞台になっている内浦の商品ですよ”と、市外、県外からいらっしゃる方におすすめできる商品です。”もう少し長ければ帯になるのに”そんなお声もありました」
店頭のポップは、ご自身も糸結浴布ユーザーである井草さんお手製。
ポップや季節ごとにセレクトされた手拭いなどにも、ぜひ注目してみてくださいね。
所在地:静岡県沼津市大手町4-6-1
営業時間:10:00-18:00
定休日:水曜日
TEL:055-962-0832
Instagram:@masahikoigusa
X:@iguigu0718
facebookページ:井草呉服店
ホームページ

漁業資材という枠を超え、海の文化そのものを届ける
現在、開発から10周年を前に「糸結浴布」はバージョンアップ準備中。
- 幅と長さを少し拡大
- 糸を太くしてボリュームアップ
「より使いやすく、より長く愛されるよう改良しました。バージョンアップを楽しみにしていてください! 漁網の新しい使い方として、空間装飾(例えば、海をテーマにした内装、演出)、ディスプレイなど、ご興味がある方はご相談ください。オリジナル商品として漁網タオルのOEMも承ります」
取材中も塚田商店には来客があったり、電話がかかってきたりと、普段の仕事風景を見ることができました。
「お世話になります」サワコさんのやわらかい声と明るい笑い声に、支えられ、助けられている人が大勢いるのだろう。伊豆の海のように穏やかで、芯の強い三代目の姿を見ながらそんなふうに思いました。
「塚田商店」は今日も、海と人をつなぐ“縁の糸”を結び続けています。
スポット情報 – 塚田商店
所在地:静岡県沼津市内浦小海91-21
営業時間:平日9:00-12:00
定休日:土日祝
TEL:055-941-3249
Instagram:@tsukadagyomou.9885
facebookページ:漁網・漁具の塚田商店
ホームページ
■内浦小海店のみ店舗販売、その他は受注販売
2025年10月に取材しました。
※記事内の価格については変動する可能性があります